SIer勤務のいずくです。

今日はSIerにおける 「本体」 とも言える業務、「調整業務」について話していこうと思います。 よくネットで「SIerはエクセル戦士とか、調整ばかりしている」と揶揄されますが、

  • 「じゃあ具体的に誰と何を調整してるの?」
  • 「なんでそんなに調整が必要なの?」

という部分を、現役SIer社員の視点で解剖します。

1. なぜSIerには「調整」が多発するのか

まず前提として、SIerの構造自体が「調整」を生み出すようにできています。 登場人物が多すぎるんです。

  • 顧客(発注元):お金を払ってくれる人。
  • SIer営業
  • SIer本体(PM・PL):板挟みの中間管理職。
  • パートナー(SE/PG):実際に手を動かす人たち。
  • PMO:進捗を管理する人(今回は割愛)。

※3次受け、4次受けとなるとさらに複雑になります。

SIer_Structure

この階層構造がある限り、すべての意思決定には「確認」と「合意」が必要になります。 これが「調整」の正体です。

1.1 恐怖の「伝言ゲーム」

SIerにとって最も調整スキルが試される(そして炎上する)のが、開発中の追加要望です。 流れをざっくり書くとこうなります👇

  1. 顧客が営業に要望を伝える
  2. 営業がPLに以下を確認
    • 要望内容
    • 実装の可否
    • 実装するならスケジュール
  3. PLがチームに要望を展開
  4. チームがPGに見積もりを依頼
  5. PGがチームに見積もりを返す
  6. チームがPLに結果を報告
  7. PLが実装可否・時期を判断(必要ならPMに相談)
  8. PLがSE/PGに開発を依頼し、営業にも報告
  9. 営業が顧客に伝える

…伝わりますでしょうか? この 「言った言わない」や「できるできない」のすり合わせだけで、平気で1週間が過ぎます。 設計書やコードを見たりしている時間より、誰かが誰かを説得・説明している時間の方が長い。 これがSIerのリアルです。

伝言ゲームを繰り返すことで思ってないシステムが出来上がる、、、ということについては、 実は以下の記事でまとめているので興味があれば見てみてください。 なぜSIerの現場では『本当に必要なもの』が作られないのか?

2. SIerでは役職によって調整相手と内容が違う

では案件の流れ方について軽く説明したところで、次に誰がどんな調整作業をするのかについて説明します。

それぞれの立場でどういう調整が必要なのかを記載できれば一番良いのですが、 量が多すぎるため今回はプロジェクトのキーマンであるPLの調整業務について記載しようと思います。

図を見てもらったら分かる通り、PLは営業、PM、PG、自分の配下という4つの立場の人とやり取りを行います。 (PMOもSIerのPMと関係深いが一旦無視する) そのいった背景もあり、調整内容が非常に多岐に渡ります。例を挙げると以下のようなものがあります。

SIer(PL)⇔SIer(営業) SIer(PL)⇔SIer(PL以外) SIer(PL)⇔SIer(PM) SIer(PL)⇔PG(PL)
営業から、顧客の追加要望を伝えられる。PLは、開発工数や顧客満足度向上具合によって、案件を取捨選択する。そして決定した事項を営業に伝えて納得してもらう。 メンバーからPLに対して、渡された仕事が、ある課題のため期日通り終わらない旨の相談される。PLは他のメンバーをアサインしたりして期日通り終わるように調整するか、仕事依頼元にその旨を説明して先延ばしできないか調整する。 PLからPMに対してPGの人員が何人月足りないため、追加で稟議をあげて予算を確保できないか調整。 PGからSIerに対して、見積りから遅延しているため、

上記記載したのは、PLの調整業務のほんの一部であり、実際はもっと多くの調整作業が必要となります。 こうして見ると、PLの仕事は「会話」と「判断」で1日が終わることも多いです。

3 調整される側の視点

SIer_Structure

私は今、PLの配下として仕事をしています。 つまり、“調整する側”ではなく、“調整される側”。

PLが防波堤となって政治的な調整をしてくれているおかげで、 私たちはコードを書いたり、テストを回したりできているわけですが。 しかし、PLの調整がひとたび機能不全に陥ると、そのしわ寄せは全て 「理不尽な納期」という形で、重力に従って現場(私たち)に落下してきます。 具体的に、現場では以下のような現象が起きます。

3.1 「Excelの1行」と作業量の乖離

これが最大のストレス源です。 PLや営業にとって、追加要件は 「WBS(スケジュール表)上のたった1行のタスク」に過ぎません。

PLの認識:「画面にボタンを1個追加するだけでしょ? 0.5人日でいけるよね?」 現場の現実:「ボタン追加に伴ってDBのカラム変更が必要で、それに伴う他画面への影響調査、結合テストのデータ再作成…どう見積もっても3人日かかります」

この 「解像度のズレ」を埋めるための説明コストすら、現場にとっては負担になります。 PL・営業がこういった技術的な背景を理解していない場合、「なんでそんなにかかるの? 工夫してよ」という精神論で押し切られることも珍しくありません。

3.2 「バッファ(予備日)」という名の生贄

これがSIerの構造的欠陥の最たるものです。 本来、システム開発には不測の事態(仕様の認識違い、未知のバグなど)に備えた「バッファ(予備日)」が必要です。 現場としては、「順調にいけば3日だけど、何かあったときのために5日欲しい」と見積もります。

しかし、PLがPMや営業へ報告する際、この 「何かあったときのための予備日」は真っ先に消え去ります。 なぜなら、PLにとって「なんでそんなにかかるの?」という上からのプレッシャーに耐えて正論を戦わせるコストよりも、 「(現場に無理させれば)できます」と言ってその場の会議を丸く収める方が楽だからです。

PM/営業:「もっと早くできないの?予算ないよ?」
PL:「……(説明めんどくさいな)。あー、まあ何もトラブルがなければ3日でいけます」
PM/営業:「じゃあ3日で!」

こうして、PLの 「事なかれ主義」の代償として、現場の安全マージンは生贄に捧げられます。 結果、現場には「1つのミスも許されない綱渡りのスケジュール」だけが残り、何か起きた瞬間に残業・休日出勤が確定するのです。

3.3 終わらない仕事と「見えない借金」

こうして雪だるま式に積み上がったタスクをこなすため、現場は究極の選択を迫られます。 「睡眠時間を削るか」それとも「品質(テストやリファクタリング)をサボるか」です。

後者を選べば、それは「技術的負債」という名の借金となり、プロジェクト後半で必ず爆発します。 PLは「今、SEが何を抱えているか」の詳細までは把握できません。 現場が悲鳴を上げていることに気づくのは、大抵テストフェーズでバグが多発し、進捗が燃え上がってからです。


まあ、噂によると「現場が強すぎてPLが言いなり」という逆転現象が起きているプロジェクトもあるらしいのですが……。 今の私からすれば、それは都市伝説のように羨ましい話ですね。

4. コラム:なぜPMや営業は「敵(顧客)」の味方をするのか?

不思議に思いませんか? 営業もPMも、同じ会社の人間です。 なのに、なぜ彼らはPLや現場の味方をせず、顧客の無理難題を「うんうん」と聞いて現場に流してくるのか。

理由はシンプルで、「評価されるポイント(KPI)」が違うからです。

  • 営業は「売上」が欲しい。だから「できます!」と言って仕事を取ってくる。
  • PMは「利益」が欲しい。だからPLの「人を増やして(=コスト増)」という提案を却下する。
  • PL/現場は「品質・納期」を守りたい。だからリソースを求める。

この 「利益相反」が社内で起きているため、構造的にPMや営業は、PLにとって「理解のない上司」になりがちです。

もちろん、元エンジニアで現場の痛みがわかる「技術よりのPM」もいますが、 SIerの構造上、「現場を守ること」と「会社の利益を守ること」はトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係になりやすいのが現実です。

PLが一番板挟みで辛いのは、この 「社内の敵(利益追求)」と「社外の敵(仕様変更)」の両方と戦わなければならない点にあるのかもしれません。

まとめ:調整こそが「最強のスキル」かもしれない

今回はSIerの「調整業務」について、現場の視点からまとめました。

新人の頃は「調整なんていいから技術させろよ」と思っていましたが、 この業界で生き残る、あるいはフリーランスとして高単価を狙うなら、 実は 「技術力」より「調整力」の方が重要なんじゃないかと最近感じています。

  • 無理な案件を断る交渉力
  • 顧客の「本当の要望」を引き出すヒアリング力
  • 炎上しそうな予兆を察知して、事前に関係各所に根回しする力

これらがないと、どんなにハイスペックな技術者が集まってもプロジェクトは失敗します。

まあ、僕はまだその域には達していないので、とりあえず今は降りてきた仕様変更と戦いながら、 「頼むから仕様を固めてから持ってきてくれ」と祈る毎日です。

追伸:転職エージェントも「調整のプロ」だ

話は逸れますが、転職エージェントも究極の「調整職」ですよね。 求職者と企業の間に入って、年収交渉や日程調整をする。 「相手の顔を立てつつ、自分の要望を通す」という点では、SIerのPL業務と通じるものがある気がします。

もし、今の現場で「調整ばかりで疲れた」という人は、その調整スキル、実は別の業界でも高く売れるかもしれませんよ。 (もちろん、僕はまだこの業界で戦いますが!)