
なぜSIerの現場では『本当に必要なもの』が作られないのか?
投稿日: 2025-06-30 | カテゴリ: SIer「顧客が本当に必要だったもの(Tree swing cartoon)」という有名な風刺イラストをご存じだろうか?
要するに「顧客 → 営業 → SE → プログラマー」と伝言ゲームを繰り返した結果、誰も頼んでいないアクロバティックなブランコが完成しがち、というアレである。 学生時代に見たときは「へ〜」くらいだったこのネタ、社会人一年目の新人研修中は「こうはならないようにせねば」と引き締めに使われ、そして二年目の今。
正直な感想を言っていいですか?
そもそもそんな上流な仕事、させてもらってませんけど!?
そう。自分はずっと同じ巨大プロジェクトにぶち込まれている下っ端SEでして、要件定義?なにそれ美味しいの?っていう世界で生きております。 とはいえ、このTree Swingのネタがまったく自分に無関係かというと、そうでもない。
むしろ、「ある種の別解釈」として、日々感じていることがあります。 それは、
- 顧客要望とはズレた要件で作りがち
- 作れそうでもちょっとでも難しければやらない
- そして優秀なエンジニアは案外、いないのかも知れない
このあたりの実感を、ゆるっと書いていきたいと思います。
顧客要望とはズレた要件で作りがち
SIerあるあるですけど、顧客の「本当の要望」がプロジェクトのゴールになるとは限らないんですよね。 たとえば、お客様が5つの改善要望を出してきたとする。その時、開発チームがどう動くかというと、こうです:
「この2つは工数的に厳しいっすね〜。残り3つなら…まあ、やれなくもないかな?」
ここで選ばれる3つというのは、別に顧客の優先順位1〜3位というわけじゃない。 ただただ「やりやすそう」だから選ばれただけ。 「いやそれ、こっちはそんなに欲してなかったんだけど…」という3選が納品され、ほんとに必要だった2つは華麗にスルーされる。
開発側の事情も分かります。 PJが長引くと疲弊する。納期は迫る。要件を詰める打ち合わせで疲れきって、結局「まあ、できそうなやつだけやっておこうか」という空気が漂う。 悪意じゃない。余裕がないだけ。
でも結果的に、顧客にとっては「使いづらいけどまあ動くもの」が出来上がる。Tree Swingの世界ですよ。
ちょっとでも難しければ、やらない
「これはできそう」「これはちょっと難しいからやめとこう」 この判断基準、めっちゃ見ます。むしろそれがカルチャーかと思うくらい、自然に行われている。 理由も分かります。SIerは自社プロダクトを作る会社じゃない。 他社のシステムを請け負って作る商売です。 リスクは取りたくないし、後で炎上しても責任取れない。それが現場のリアル。
結果、「これ、自分でも作れるんじゃ…?」という業務システムが量産されていく。 いや、もちろん個人では無理なんだけど、仕組みとしてはそれくらいのレベル感。 複雑なロジックや先進的なアーキテクチャは求められない。 新人がChatGPTと相談しながらポチポチ作っても似たようなもんが出来そう、っていう。そんな感覚すらある。
「優秀なエンジニア」が見当たらない理由
ここでいう「優秀なエンジニア」とは、ただ要件通りに動くものを作る人ではない。 未知の技術にも果敢に取り組み、深い知見とスピード感をもって問題を解決できる人のこと。 自分の中のイメージだと、大学時代の研究室の先輩たちがまさにそうだった。
Linuxサーバを自分たちで管理し、PythonやRustやらを使い倒し、よくわからんアルゴリズムを夜な夜な試してたあの人たち。 Gitもコマンドラインも使いこなし、技術書を枕に寝ていた(気がする)。
翻って今の現場。 尊敬できる人はたくさんいる。 でも、技術オタクな意味での「ガチ勢」は少ない。 当然、求められるアウトプットが違うし、環境も違う。 効率と安定性と予算内納品が至上命題のSI現場において、「新しいことにチャレンジ!」なんて言ってられない。
でもだからこそ、たまにふと思うんです。
この業界、本当の意味で優秀なエンジニアって、どこにいるんだろう?
結論:Tree Swingは今日もどこかで揺れている
というわけで、「顧客が本当に必要だったもの」は、SIerの現場ではなかなか作られません。 でもそれは誰か一人のせいじゃない。構造的な問題であり、文化的な課題でもあります。 そして若手SEとして生きる自分も、その構造の中で日々、取捨選択を繰り返している。 Tree Swingを笑っていられるのは、まだブランコのロープに触れていない人だけかもしれない。
おまけ:じゃあどうすればいいの?
よく聞かれますが、「それが分かれば苦労しねぇよ」としか言いようがないです。でも、せめてこれだけは言わせて。
技術と向き合うことを、忘れないでいたい。
日々の業務がどれだけ泥臭くても、新しいことにワクワクできる自分でいたい。 Tree Swingに引っ張られて首がもげそうになっても、自分の軸だけは曲げずにいたい。
そんなふうに思ってます。