社会人になってしばらくした頃、あることに気づきました。
「この世界では、誰もが“顧客”であり、同時に“ベンダー”でもある」ということ。
それは、仕事の現場で起きる「怒り」や「詰め文化」の正体を理解するうえで、意外なほど重要な視点でした。
1. 気づいてしまった構造:「人は誰かの顧客であり、誰かのベンダーでもある」
SIerで働きながら、僕はしばしば「どうしてこんなに怒りが伝播していくんだろう?」と不思議に思っていました。
でもある時、ふとこう捉えてみたら腑に落ちたんです。
- 現場 → PM → 部長 → 役員
- エンジニア → 営業 → 顧客企業
- 顧客企業の担当者 → その上司 → さらにその上層
この流れの中で、人は立場によって「顧客」にも「ベンダー」にもなる。
そして、どこかで不具合やトラブルが起きたとき、
怒りやプレッシャーが“上下・左右”に流れ続ける。
これは個人の性格ではなく構造的に起こる現象なんだと気づきました。
2. SIerの障害対応は「怒りの構造」を理解する教材として最適
SIerでは、障害対応の現場がこの構造をもっともわかりやすく見せてくれます。
- 障害が発生すると誰かが気づく
- PMに報告
- PMが各所に連絡し、復旧・調査を指示
- 現場が対応
- 結果をPMに報告
- PMが営業・上司へ報告
- さらに上へとつながっていく
この流れのどこかで、必ず“詰め”が起きる。
もちろん、顧客が怒るのは理解できます。
サービスが止まれば損害が出るのだから当然です。
しかし、問題は 社内でも怒りが回り始める こと。
PMが部下を詰め、部下はさらに下のメンバーを詰め、
最後には誰が誰に怒っているのか分からなくなる。
これが多くの若手を消耗させている「縦の詰め文化」です。
3. BtoCの世界でも怒りは伝播する|Amazonの三脚が届かない話
怒りの伝播は、SIerに限った話ではありません。
たとえば、Amazonで注文した三脚が期日に届かなかったとします。
顧客は当然イラっとする。
でも、その顧客が式場で撮影をするカメラマンだったとしたらどうでしょう?
三脚が来なかったせいで上司に怒られたり、現場で迷惑をかけたりする。
その怒りが、今度はAmazon(または配送会社)に向かう。
つまり、怒りは立場を移動しながら伝播していく。
「相手は顧客だから怒る」のではなく、
「誰かに怒られたから、別の誰かに怒りが流れる」だけ。
これはSIerの現場と完全に同じ構造です。
4. 社内で「詰め」が起き続ける本当の理由
若手の頃は「なんでこんなに怒鳴り合ってるんだろう」と感じます。
でも、「顧客 = ベンダー」という関係性が入れ替わり続ける世界では、
怒りや責任がどこかで“滞留”することなく流れ続ける。
そして、その構造を加速させる要因がいくつかあります。
上司は顧客に怒られ、処理しきれないプレッシャーを部下へ流す
感情は伝播します。
消化できないプレッシャーは、次の弱いところへ流れていきます。
責任範囲が曖昧で、「誰のミスなのか」を明確にしづらい
システム開発は共同作業なので「ここがあなたの責任です」と切り分けにくい。
評価制度が“怒りの矛先”を生む
上司は評価されるために成果が必要。
トラブルは評価に響くため、怒りが内部へ流れやすくなる。
心理的安全性より“体裁”を重視する文化が根強い
SIerでは「怒られてはいけない」という空気が強いため、
怒りが消化されずに連鎖しやすい。
5. 若手がこの構造の中で“巻き込まれない”ために知っておくべきこと
大切なのは、あなたの性格や能力の問題ではないということ。
怒りの連鎖は、職場の構造で発生している。
だから、個人の努力だけで止められるものではありません。
働いていくうえで重要なのは、
- 事実ベースで話す
- 感情の渦に入らない
- 「できること/できないこと」を明確に伝える
- 自分の責任範囲を把握する
こうした“巻き込まれない技術”を身につけることです。
怒りの伝播に巻き込まれて疲弊する必要はありません。
それはあなたが悪いのではなく、仕組みの問題だからです。
6. 結論:怒りを止める唯一の方法は「背景を想像すること」
社会人になって気づいたのは、
人は誰かの顧客であり、誰かのベンダーでもあるということ。
誰かが怒っているとき、その裏には
- さらに別の誰かから怒られた
- 背景に大きなプレッシャーがあった
- 事情があって余裕がなかった
そんな“見えない文脈”が存在することが多い。
怒りをぶつけ合うのではなく、
背景を少しだけ想像してみる。
それだけで、職場の空気はほんの少しだけ変わる気がしています。



